コラム

地方創生と観光の本質 – インフラ整備が変える日本の未来

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明けましておめでとうございます、2025年も引き続きよろしくお願いいたします。少し正月太り気味で、すっかり執筆もサボってましたので、今回一気に吐き出したいと思います。

第一部:観光の本質と現代的意義

第一章:観光の本質を問う

人類の歴史において、観光は常に重要な役割を果たしてきた。古代ローマ時代には、裕福な市民たちが保養と学びを兼ねて地中海沿岸を旅した記録が残っている。日本においても、平安時代の貴族による紀行文や、江戸時代の庶民による伊勢参りなど、観光の歴史は深い。

しかし、現代における観光の本質とは何だろうか。単なる非日常的体験の消費なのか、それとも異文化理解の手段なのか。この問いに対する答えは、今日の観光政策や地方創生の方向性を大きく左右する。

例えば、長野県の善光寺では、参拝客に単なる観光としての寺院見学ではなく、「回向柱」に触れる体験を提供している。暗闇の中で柱を探る体験は、仏教における「闇から光へ」という象徴的な意味を持つ。これは観光の持つ「学びと気づき」という本質的な価値を体現している。

第二章:現代観光の課題

現代の観光には、いくつかの本質的な課題が存在する。その最たるものが「観光の質」と「量の調整」という、相反する要素のバランスである。

京都市を例に取ると、オーバーツーリズムの問題が顕在化する以前から、祇園や嵐山などの人気観光地では、地域住民の生活と観光客の流入のバランスが課題となっていた。これに対し京都市は、修学旅行生の分散化や早朝観光の推進など、様々な施策を実施してきた。

一方で、地方部では観光客の絶対数の不足という課題を抱えている。例えば島根県の石見銀山は、世界遺産に登録されているにもかかわらず、その価値に見合った観光客数を確保できていない。これは、アクセスの問題や受け入れ態勢の整備不足など、複数の要因が絡み合っている。

第二部:地方創生と観光インフラの相関

第三章:道の駅による地域観光の革新

道の駅は、単なる休憩施設から地域の観光拠点へと進化を遂げている。和歌山県の道の駅「椿はなの湯」は、地域の農産物直売所としての機能に加え、温泉施設や体験型農園を併設し、年間を通じて多くの観光客を集めている。

特筆すべきは、道の駅が災害時の防災拠点としても機能することだ。東日本大震災の際、道の駅「大谷海岸」(宮城県)は、被災者の一時避難所として重要な役割を果たした。この経験は、観光インフラが持つ多面的な価値を示している。

第四章:文化財の保存と活用

文化財の保存と活用は、観光振興において重要なテーマである。熊本県の人吉市では、球磨川の清流を活かした観光と、古い町並みの保存を組み合わせた取り組みを行っている。特に、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された九日町通りでは、古民家を活用した宿泊施設や飲食店が営業を始め、観光客の滞在時間の延長に貢献している。

第五章:空路整備の戦略的展開

地方空港の整備は、その地域の観光戦略において重要な転換点となる。しかし、単純な施設整備だけでは十分な効果は得られない。成功している地方空港に共通するのは、明確な差別化戦略の存在だ。

能登空港の例を見てみよう。この空港は年間の搭乗者数は決して多くないものの、世界農業遺産に認定された能登の里山里海への玄関口として、その存在価値を確立している。特に、輪島の朝市や千枚田といった地域固有の観光資源との連携を強化することで、富裕層向けの観光ルートを確立している。

一方、佐賀空港は福岡空港との距離が近いという課題を抱えながらも、LCC誘致に特化した戦略を展開。より広域な九州観光の玄関口としての位置づけを目指している。

第六章:災害時における観光インフラの役割

観光インフラは、災害時には地域の重要な生命線となる。この観点は、特に東日本大震災以降、重要性を増している。

仙台空港の例は特に示唆に富む。津波による甚大な被害を受けながらも、復旧・復興のプロセスで、より強靭な施設へと生まれ変わった。特筆すべきは、災害時の代替輸送手段としての役割を明確に位置付けたことだ。

また、新潟県の温泉地では、中越地震の際に観光施設が避難所として機能した経験から、防災機能を強化した施設整備を進めている。これは観光インフラの多機能性を示す好例といえる。

第三部:持続可能な観光の実現に向けて

第七章:地域文化の継承と観光

観光は地域文化の継承において、両刃の剣となりうる。過度の商業化は文化の本質を損なう可能性があるが、適切な観光振興は文化継承の経済的基盤となる。

青森県の「ねぶた祭り」は、この balance を上手く取っている例として注目される。祭りの運営には多額の費用が必要だが、観光収入がその経済的基盤となっている。同時に、ねぶた制作の技術継承や、地域コミュニティの維持にも貢献している。

第八章:インバウンド観光における地方の可能性

地方におけるインバウンド観光は、その地域固有の価値を世界に発信する機会となる。

長崎県の五島列島では、潜伏キリシタン関連遺産の世界遺産登録を契機に、島の歴史や文化を活かした観光振興を展開している。注目すべきは、単なる観光地としてではなく、「信仰の島」としての本質的な価値を守りながら、観光との共生を図っている点だ。

第九章:観光地経営の新たなパラダイム

これからの観光地経営には、「保存」と「活用」、「地域の暮らし」と「観光」、「経済性」と「持続可能性」といった、様々な要素のバランスが求められる。

富山県の五箇山合掌造り集落では、世界遺産登録後も地域住民が実際に生活を営んでいる。観光客の受け入れと、集落の生活環境の保全の両立を図るため、地域全体での観光マネジメントを実施している。具体的には、シャトルバスの運行による交通量の制限や、予約制の見学システムの導入などだ。

第十章:広域観光連携の新展開

観光における地域間連携は、単なる周遊ルートの設定を超えた戦略的意義を持つ。

北陸新幹線の開通は、この点で重要な示唆を与えている。金沢、富山、長野という各都市が、競合ではなく補完関係を築くことで、より魅力的な観光圏を形成している。例えば、伝統工芸の分野では、金沢の加賀友禅、富山の高岡銅器、長野の木工芸という具合に、それぞれの特色を活かした観光ルートが確立している。

第十一章:二次交通の革新

空港や新幹線駅から観光地までの二次交通の整備は、地方観光の重要課題である。

岩手県の平泉では、世界遺産登録後、観光客の増加に対応するため、バス路線の再編を実施。特に注目すべきは、一関駅から平泉までの直行バスに加え、周辺の観光地を巡る周遊バスを導入したことだ。これにより、観光客の周遊性が高まり、滞在時間の延長にも成功している。

第四部:未来への展望

第十二章:観光人材の育成

持続可能な観光の実現には、専門的な人材の育成が不可欠だ。

和歌山県の高野山では、宿坊での修行体験プログラムを提供する際、僧侶たちが英語での説明能力を養うため、特別な研修を実施している。これは、観光の質を高めながら、文化的価値を正確に伝えるための取り組みといえる。

第十三章:季節性への対応

観光地の多くは、季節による来訪者数の変動という課題を抱えている。

北海道ニセコ地域は、この課題に対する好例を示している。かつての夏季限定の観光地から、世界的なスキーリゾートへと発展。さらに、グリーンシーズンには、ラフティングや乗馬など、自然を活かしたアクティビティを充実させることで、年間を通じた観光地として確立している。

結論:本質的価値の追求

観光の発展において最も重要なのは、その地域が持つ本質的な価値を見極め、それを守りながら活かしていくことだ。それは時として、短期的な経済効果より、長期的な持続可能性を重視する判断を必要とする。

例えば、高知県の四万十川では、「最後の清流」という価値を守るため、大規模な観光開発を意図的に控えている。その代わり、カヌーツーリズムなど、環境負荷の少ない観光形態を推進している。この判断は、短期的には経済効果を制限するものの、長期的には地域の価値を保全することにつながっている。

観光インフラの整備も、この本質的価値の追求という文脈で捉える必要がある。新しい空港や道路は、単なる利便性の向上ではなく、地域の価値をより多くの人々と共有するための手段として位置付けられるべきだ。

そして何より、観光は「地域の誇り」を育む営みでなければならない。訪れる人も、迎える人も、その地域の価値に誇りを持てる。そんな観光の在り方を、私たちは追求していかなければならない。

※本記事は、過去にnoteで執筆した記事を再掲しています。

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